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ゲーム系二次創作です。
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↓『雨音』の続きです。
 凌統不在です。お頭総モテの予感です。

 次の戦は決まっていた。だが、まだ軍師の範疇を超えてはいないようだった。
 甘寧は、軍議に出るよりは配下の者たちの訓練に付き合う事の方が多かった。作戦の中枢を担う事になる甘寧に凌統は軍議に出るように言ったが、陸遜は無理に参加しなくともいいと言った。何も陸遜も甘寧を蔑ろにしているわけではない。適材適所、陸遜も軍師として人の動かし方を覚えてきたといったところだろう。以前の陸遜であれば、自分の立てた軍略を針穴一つの齟齬も無く貫遂して欲しいと思っているようなところがあったが、…呂蒙を失った今、陸遜も一つ先の自分に進まねばならなかった。どれほど緻密に軍略を練っても、動くのは人である。自軍も人であるならば、敵軍も人。臨機応変に対応しなければ勝てる戦も逃す事になる……。今の陸遜ならばそれが判る。机上で立てる軍略がどれほど優れていようと、遂行する人間に任せる事が出来なければ、下策である。自分が動かしているのは、地図上の駒ではなくて、仲間なのだと、陸遜も思うようになっていた。
「甘寧殿」
 軍議の合間を縫って、調練場にも陸遜はよく顔を出すようになっていた。
「調子は如何ですか」
 今日も調練場で配下の者達をしごいている甘寧に声を掛けた。
「ああ、いいぜ。直ぐにも戦に出られる」
「それは頼もしい限りですね」
 今は機を見ているところだから、まだ直ぐに戦とは行かないと言う陸遜に、甘寧が唇の端を上げて笑って見せた。
「急ぎやしないさ。…こいつ等の中には、もうちっとばかし鍛錬のいる奴もいるからな」
 これも、最近の甘寧には珍しくない事だった。自分の配下は命知らずばかり、戦場で怖気ずくような奴はいないと豪語して見せるような甘寧だったが、……失う痛みを知ってしまった甘寧は、これで充分と言う事は無く配下の者達に調練をさせた。
「ええ。戦は準備も肝要です」
 陸遜が明るい笑顔を見せて徒手礼をした。甘寧は相変わらず、軽く手を振って見せるような態度なのだが、陸遜は今までのように甘寧を慇懃にあしらう様な事はなくなっていた。
 橙色の裾が翻って、陸遜が歩み去るのを見送りながら、……甘寧は小さく息を吐いた。
 ……俺だけが…越えて行けねぇんだな……。誰もが、呂蒙の不在を悲しんでいた時期は過ぎていた。皆胸の中には深い喪失感を持ってはいるのだろうが、表立って呂蒙の不在を悲しむような事はなくなっていた。
 まだ孫呉は道半ばである。呂蒙ならば、自分の死を悼むよりも前進を望んだだろう。甘寧にもそれは判っているのだ。判っているのだが、甘寧にはどうする事も出来ないのだ。…先日の晩に凌統に連れ帰られて以来、幻の雨音に苛まれる事は無くなったが、呂蒙のいなくなった穴はぽっかりと甘寧の中にあいたままだった。
 空洞を抱えた心は痛かった。自分の命さえ、ただ滾る思いを昇華させる事が出来ればどうでもいいと思っていた甘寧だった。どこで土に還る事があっても、後悔などは無いと思っていた。…だが、それは自分の命の事。呂蒙を失って、…甘寧はどうにも出来ない臆病風に吹かれた。自分の知る者、誰一人でも死んでは欲しくなかった。いなくなって欲しくなかった。仲間を一人でも失ったら……、何もかもを失ってしまうような恐怖を覚えた。元々物などには執着の無い甘寧にとって、仲間は掛け替えの無い財産に思えたのだ。
 ……そして、呂蒙は、甘寧にとって只の仲間ではなかった。危なっかしく生きる甘寧を導いてくれようとしていた呂蒙。父のように、兄のように……、呂蒙はそうして甘寧の面倒を見てくれたが、甘寧にとっては、胸苦しい秘密の恋を囲う相手であった。長い間船に閉じ込められるような水賊時代でも、甘寧は男同士でのそうした擬似恋愛のようなものには興味が無かった。初年時代の甘寧にそうした食指を動かす者は多数にあった事は事実だが、甘寧は望まぬ相手は悉く拳で返答を返して来た。まさか、自分が男に惚れるとは思っていなかったことでも途惑っていたし、呂蒙にそうした好みがあるようにも思えなかった。
 甘寧からの、一方通行の片思い。一緒にいる事は、切なくて苦しい事でもあったが、…甘寧に向けられる呂蒙の笑顔は、いつも温かかった。
 ぼんやりと陸遜の去った方向を見ていた甘寧の視界が、大きな影に遮られた。
「幼平…」
「手が空いているなら……」
 得物を掲げて見せる周泰。言葉は少ないが、似たような境遇を知る甘寧に、周泰も心を砕いていてくれる。
「なぁ……幼平…」
 周泰を見上げた甘寧の目が、言葉を捜して少し泳いだ。
「大切な人が……幼平の大切な人がいなくなった事って…あるか…?」
 常に感情を表に出さない周泰だったが、僅かに見開かれた目の中に痛みを堪えるような色が見えた。
「…そっか……。やっぱり、俺はおっさんに甘えてたんだな……」
 周泰の痛みに気付いた甘寧が俯いた。周泰は耐えられる。周泰の中では、それはまだ深く生々しい傷なのかもしれないが、周泰はそれを人に見せびらかして同情を誘ったりしない。
 自分が酷く女々しく思え、甘寧は腹立たしくなった。…自分ばかりが悲しい訳ではないのに、陸遜も笑顔に隠れて淋しさも悲しみも持っているはずなのに…、そう思うと自分が情けなくもなる。
 ぐっと、唇を噛み締めた甘寧の肩に、暖かい物が触れた。
「…幼平……」
 周泰の掌が、剥きだしになっている甘寧の肩を包み込むように掴んだ。この手のままに、周泰はこの手が表すままに、ごつごつと武骨ではあったが暖かかった。
「うん。ちゃんと、鍛えなくちゃな」
 甘寧が顔を上げると、周泰が目を細めた。
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