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ゲーム系二次創作です。
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↓凌甘始めました。
 りょも甘前提です。呂蒙サンに片思いで乙女なお頭になる予定です。
 一話完結式の連作になると思います。

 床に就くと雨の音がした。
 降りしきる雨の音。放水された川の濁流。……目を閉じると、柔らかい笑顔だけが浮かんだ。
 無理矢理に頭の中から追い出そうとする雨の音だが、その音は甘寧を解き放つ事は無かった。
 眠りに就こうと目を固く閉じると、甘寧の耳の中に自分の叫び声が木霊した。
 ……初めて呼んだ名前……。照れくさかったのだ。ずっと、呼ぼうと思いながら、何とも気恥ずかしくて呼べなかった名前だった。
「…呂蒙……」
 寝台を降りた甘寧が明り取りに近付くと、ひらりと外に飛び出した。草の上に降り立つと、宛ても無く走った。
 自分が無茶をしなければ、呂蒙は死ななかったのだろうか……。何度も自分自身に問いかけた事だが、答えは決して出ないのだ。
 月の煌々と照る中、甘寧は走り続けた。
 息が切れて倒れるまで走って、…疲れ果てるまで走らなければ、眠りに就くことが出来なかった。汗まみれになって、足が縺れるまで走った。真っ白な月は空に掛かっているが、甘寧の中にはずっと雨が降っているのだ。
 草原に倒れた甘寧の目に、丸い月が映っている。
 ……おっさん…俺………。生きる場所をくれたのだと思った。持て余す力を生かせる場所を、呂蒙は甘寧に与えてくれた。賊としていきがってみた所で、天井は直ぐに知れる。そうではない場所、滾る思いのままに生きられる場所を、甘寧は求めている事を、呂蒙は判ってくれた。
 ……こんな、女々しい事言ってたら怒るよな………。
「…逢いたい……おっさんに、逢いたいよ……」
 空っぽに乾いた甘寧の眼の中に、月の光は降り注いだが、枯れてしまった涙を零す事も出来なかった。
 幾ら武に秀でていようとも、子供の喧嘩ではない。戦には道理がある。それを弁える事の出来なかった甘寧と他の者達の間を、呂蒙は陰に日向に庇ってくれた。子ども扱いはするなと怒った甘寧だったが、…やはり自分は子供なのだと思う。突き進むだけしか知らない子供なのだと思う。
 ……だから、…だからいなくなっちまったのかよ………。置いてきぼりは嫌だった。いつも、いつも船に乗って去って行くのは自分のはずだった。桟橋で涙に暮れるのは自分ではなくて、港港で馴染んだ女のはずだった。

「こんな夜中に何やってんだよ」
 草原に寝転んだ甘寧の視界に、見慣れた顔が映った。
 白い月を遮った顔は、どこか怒っているように見える。
「…寝る時まで管理されなきゃならねーのかよ」
 憎まれ口をきく甘寧の前に手が差し出された。
「管理じゃねぇっつーの」
 課が見込んで手を掴んだ凌統が、甘寧を引き起こした。
「お節介すんじゃねーよ」
 凌統の手を振り解いて、甘寧が歩き出した。
「そっちは違うだろーが!」
 陣幕の方に戻ろうとしない甘寧の肩を、凌統が掴んだ。どれほどこの場所にいたのか、甘寧の肩は冷たく冷えていた。甲冑に守られていない甘寧の肩は、触れた凌統が驚くほど頼りなかった。勿論、鍛えこまれた筋肉に覆われた甘寧の体は、決して華奢とも細いとも思えないのだが、墨に守られてさえ、甘寧の肩は頼りなく思えた。
「…悲しいのは…おまえだけじゃねーっつの!」
 ぐい、と甘寧の肩を引き寄せて、凌統が後ろに踏み込むと、体重を乗せた拳で甘寧の頬を殴った。
「ぅぐっ…て…てめぇ…何しやがる!喧嘩なら受けて立つぜ!」
 尻餅を突いた甘寧だが、猫のように軽い身ごなしで立ち上がると、凌統の前に構えた。
「何してるかって?そりゃ、あんたの方じゃねーかよ!」
 近付いた凌統に身構える甘寧だったが、…凌統の腕は拳ではなく甘寧に触れた。
 凌統の長い腕が、甘寧の肩を引き寄せて抱きしめた。
「…呂蒙さんいなくなって…悲しいのも辛いのも、あんただけじゃねぇんだよ。……一人っきりで抱え込むなよ。俺たち、仲間じゃねぇのかよ」
 凌統の腕の中で、甘寧の体が一瞬強張って、静かに緊張が解けた。
「呂蒙さんがいなくなっても、あんたのいる場所はここだろ?孫呉が…ここが、あんたの生きる場所なんだろ?」
 ………おっさん……。甘寧の中で、煩く降頻っていた雨音が止んだ。
「あんたが……殿を放り出したりしたら、呂蒙桟だって浮かばれねぇよ」
 月明かりの中で、凌統が微笑んだ。柔らかく細めた眼差しが、甘寧を見詰めている。
 ……そうか…俺のいる所はちゃんとあるんだ……。
 甘寧が小さく頷いた。自分はまだ道の途中にいるのだ。それは呂蒙が自分に示してくれた道だった。孫権の為にと、孫呉の為にと、…呂蒙が歩もうとしていた道の半ばに、自分はまだいるのだ。
「帰るぜ。あんたが毎日蒼い顔してるって、うちの軍師さん達も計略が立て辛くて仕方がねーっつの」
 ぽんと、甘寧の肩を叩いた凌統が手を差し出した。拳を掲げる凌統に、甘寧も拳を合わせると、凌統の掌がそのまま甘寧の手を包み込んで歩き出した。
「手なんか繋がなくてもちゃんと帰るぜ」
 子供でもあるまいと手を解こうとする甘寧に、凌統が手を繋ぐ力を強くした。
「判ってるっつーの。…俺が、…俺があんたと手を繋ぎたいんだよ」
 後は黙って歩き出した凌統に手を引かれながら、甘寧の乾いた眼から、月の雫が一粒草の上に落ちた。
 きらきらと、それはまるで月の子供のように煌きながら、甘寧の歩く足の先に落ちた。
 ……まだ、ここは途中なのだ。甘寧が顔を上げ、先を行く凌統の背を見た。
 ……おっさん…俺、まだそっちには行けねぇみてーだよ……。

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