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ゲーム系二次創作です。
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↓陸遜→甘寧です。『温もり』の続きです。

 奇策を用いる事になった。
 次の戦について詰めている陸遜の元に周魴の使者が訪れた。周魴が曹休に偽投降して魏軍をおびき出す事に成功したという知らせだった。
「これで、少しは風通しが良くなりますか…」
 戦が無ければ無いに越した事は無いとは思う。だが、孫権の安泰を得るまでは、戦が無くともそれは休戦でしかない。戦の無い安定した国家は民草の暮らしも安堵し、文化も栄える事だろう。しかし、休戦は仮初めの安寧でしかない。いつ徴兵が始まるのか、いつ戦地に赴く事となるのか、中途半端な休息はかえって戦士達の意志を殺ぐ事になる。
 そして、今は特に戦がない事が皆を倦ませている。呂蒙の抜けた穴は、誰にも埋めようが無かった。いつでも、勝ち戦でも負け戦でも犠牲はあった。失って良い者など誰一人としていない。だが、呂蒙を失くしてしまった事は、陸遜の中にも大きな穴を開けていた。自分自身でさえ、呂蒙の死を受け入れる事が難しいのだが、…陸遜には甘寧の様子が痛々しくて見ているだけでも辛くなってしまう。自分勝手に戦場の中を駆け巡る旋風のような甘寧、軍師としての陸遜は持て余すところが無かったとは言えなくも無い。けれど、陸遜の目はいつも甘寧を追ってしまっていた。人の目を惹き付けてやまないところが甘寧にはあった。危なっかしいと言いながらも、呂蒙もそんな甘寧に魅せられていたのだろう。そして、自分も……、陸遜が小さく首を振った。
「少しでも…助けになればいいのですが……」
 陸遜が甘寧に救いの手を伸べたいと思っていても、きっと甘寧は自分の傷にさえ気付いていないのだと思う。自分のせいで呂蒙を死なせてしまったと、そうして自分を責める事はあっても、自分がどれほど傷ついているのか……甘寧は気付かないのだ。
 可哀想だと、同情を寄せる事は、甘寧に対してしてはいけない事のように陸遜には思える。
 ……あの野生の山猫は、そんな風に思われていると知っただけで酷く誇りを傷つけられてしまうのでしょうね……。
 案じる者がいる事を受け入れる事も出来ない甘寧の強情は、陸遜にも判るところだった。家の再興だけを望んでいた頃には、陸遜も周りを見ることが出来なかった。今は孫権の目指すところに共感を覚え、己の一族のみの事を思うばかりではなくなった。自分で胸襟を開くことが出来れば、もっと自由に生きる事が出来ると知った。
 ……貴方は…寂しくは無いのですか……。
 呂蒙は根気よく甘寧を受け止めて、野の獣と馴染むように甘寧と絆を持つ事が出来た。誰にも物怖じしないように見える甘寧が、決して踏み込ませないところまで、呂蒙は深く根を下ろしていたのだ。
 その呂蒙を失って、甘寧はどれほど淋しく心細い事であろうか…、そう思うと陸遜の胸は切なくなった。手助けの出来ない自分自身の歯痒さも持て余す。
 だから、戦況が動く事は陸遜にとっても嬉しいのだ。一歩、孫権の望む世界に近付く事が出来る、…確かにそれも嬉しい事ではある。だが、一人胸に抱えきれない痛みを抱え、それを調練で紛らわす甘寧を少しでも救う事が出来れば、それは陸遜の気鬱を晴らすことでもある。

 使者を送り出して、陸遜が軍議の召集をかけた。人員の割り振り、移動、兵糧、戦は一人でするものではない。細かな事は各将に任せても構わないし、役割の割り振りもある。しかし、今回は奇襲をかける事になるのだ。小数の部隊編成で最大の効果を引き出さなければならない。…そして、此処が重要でもあるのだが、孫権に従う者たちの誰を置いて行くかという所が陸遜の悩ましいところであった。奇襲が成功した際には、参加した武将にはそれ相応に恩賞を与える事になる。今回の戦の重要度を考えても、恩賞にしろ待遇にしろ変ってくる者があるはずだ。そうなると、何故自分は外されたのかと恨みに思う者が出てくる。それ以上には奇襲に失敗した時には、参加した者達は実害を被る事になる。作戦の失敗を取り沙汰するような者を連れて行くつもりは無いが、…失敗した武将達への風当たりはきつくなる。置いて行かれた者はやっかみも込めて、非難を強くするかもしれない。全ては人なのだ。戦を動かすのも、国を動かすのも…全ては人なのだと、陸遜は思う。自分の境遇を振り返っても、孫家との確執のあった時代も含めて、人と言うものの厄介な様子はいやと言うほど見てきた。
 ……そんな事には、貴方を巻き込みたくないものですね……。
 陸遜は是非ともこの作戦に甘寧を投入したかった。まだ、馴染みの無い者もいる甘寧を良くは思わない者もあるはずだ。
 陣幕を出て歩き出した陸遜だったが、甘寧の参戦をどうやって皆に納得させるか…、そこは慎重に行わなくてはならない所、流石にこの名軍師であっても悩むところではあった。
 少し歩いたところで凌統に出会った。
「丁度良いところで会いましたね。少しご相談があります」
 凌統も一緒に出撃する事になるだろうが、甘寧と二人揃うと子供の喧嘩のような事が絶えないのだ。もっと陰湿に甘寧を排除しようと言う向きから考えれば可愛い限りなのだが、寄ると触ると喧嘩をしていてはそれが取り沙汰されかねない。…それこそ、子供でもあるまいにと思うのだが、体面と意地で生きる武将たちは時折子供よりも質が悪い。
 陸遜は、凌統の方に自重を頼もうとした。その事で口を開き掛けた所に、とうの甘寧が駆け寄ってきた。
「軍師さんよぅ。今度はどんな小細工するかしれねぇけど…」
 甘寧が陸遜の前に立ち塞がった。どういった情報網があるのかは知らないが、甘寧はもう奇襲戦を知っているような口振りだった。
「あんた…まだ、そんな事言ってんのか…」
 凌統が陸遜の前に出ようとしたが、甘寧が真剣な目で陸遜を見詰めて口を開く方が早かった。
「俺はどう動きゃいい?どうすりゃ役に立つんだ」
「……」
 凌統が黙り込んだ。今までの甘寧には無かった事だ。甘寧がいい加減だと言う訳ではないが、周りの事などは気に掛けた事はなかった。自分がどう戦をするか、甘寧は未だに昔の暮らしの中で生きていた。
「…貴方は…最前線で、好きに戦ってください」
 一瞬、陸遜も言葉が出なかった。
「へ…?…そんなんでいいのかよ…」
「いいのですよ。貴方は、貴方らしく大暴れしてください。それを生かして策を立てるのが私の仕事です」
 陸遜の瞳が眩しいものを見るように甘寧に向けて細められた。
 ……ああ、…貴方も、道を歩み始めたのですね………。以前のままの自分に固執するようなところのある甘寧だったが、…今は、ここに集う者達と馴染もうとし始めているのだ。調練場での様子も思い起こしてみた陸遜は、甘寧を酷く見縊っていたように思えて、心中で手を合わせた。
「そっか…。それなら任しとけよ!大暴れしてやるぜ!」
「頼もしいですね、甘寧殿」
「…だってよ…俺はおっさんの分も戦わなきゃなんねーからな」
 こんなところも、以前の甘寧には無かった。弱気を見せるような男ではなかったのだ。
 ……呂蒙殿のお陰なのですね…きっと………。甘寧が孫権の周りの者達と馴染んで行くのは良い事なのだが、陸遜には少し淋しくも思えてしまう。自分の手の内でだけ、自分の策の上でだけ、そんな風に甘寧を独占できたらと考えてみなかったとは言えない。呂蒙の後釜を狙うわけではないが、甘寧が呂蒙に寄せた信頼の何分の一かでも得られたら、そう願った事は確かにある。
「あんた一人じゃねーっつの」
 少ししんみりと落ちた甘寧の肩を凌統が叩いた。
「あんた一人で背負ってる気になるなっつの……皆、同じように背負ってるっての…思いってやつは」
 凌統が甘寧に拳を差し出すと、甘寧もその拳に応えた。
「…そうだよな……俺一人じゃねーよな」
 はにかんだように笑った甘寧の顔を見て、陸遜には少し得心のする思いがした。
 ……喧嘩するほど…って事ですか……。やはり、どこかで淋しいような思いはするのだが、甘寧の笑顔を見ると、これもまた仕方ないと思う事は出来た。
 軽やかな鈴の音と一緒に去って行く甘寧の背を見送って…、陸遜は寂しくはあったが晴れやかな思いも持っていた。
「あ、…そうだ。俺に話って?」
「ああ、それはもう良いのですよ。私の取り越し苦労のようでした」
 とうの凌統は、甘寧の変化さえも気付いていないようで……、一人空回りしている自分を思って、陸遜が小さく笑った。
「ん?何?」
「いえ、何でもありませんから」
 楽しそうに笑う陸遜に凌統が尋ねるが、…陸遜も教えてやる気は無い。
 ……貴方も少し空回りすると良いですよ………。
 凌統が甘寧の気持ちに気付いたら…、否、甘寧でさえも自分の気持ちには気付いていないのかも知れないのだ。この二人がじれったく不器用に思いを告げあう所を想像してみて……、陸遜はまた笑ってしまった。
「なんだよ。気になるっつーの!」
 この位の意地悪は焼餅で許してもらおう。……胸にあるこの淋しさに免じて許してもらおう、…そう思って、陸遜はもう一度笑った。

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